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ツキノワグマ報道の罪(「功罪」改め「罪」としました)

今夜23:15から「列島異変2016 凶暴グマ異常出没の謎を追え!」という番組が放映されます。

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気鋭のツキノワグマ研究者である森林総合研究所の大西尚樹氏に映像や画像を提供させて頂いている関係で、番組制作の担当者の方から連絡を頂き映像を提供することになりました。

ツキノワグマは、人身事故が報道機関によってセンセーショナルに扱われることにより、今や人間にとって最も危険で恐ろしい生き物として認知されています。私の周りの大人も子どもも、ほとんどすべての人が、人を見れば襲いかかってくる凶暴で危険な生き物と思っています。私の住む岩手県では、マスコミや行政によって多くの県民に「ツキノワグマ=凶暴生物」という図式が浸透し、本来の生息地であっても見かけただけで通報するという行動様式が定着しています。そのためもあってか出没件数(実際は目撃件数)が年々増加するという状態になっています。

私自身は、本格的にツキノワグマの生態記録を始めてから10数年になります。これまで多くのクマと様々な出会い方をしてきましたが、ツキノワグマが大変危険な生物であると感じたことはありません。むしろ、とても用心深い臆病者で人間のことをよく見ている知的レベルの高い(犬よりずっとかしこい)動物であると確信するに至っています。なお、クマとの突然の出会いを想定し、こちらの存在をあらかじめ知らせることやクマ撃退スプレーの携帯など、事故を防ぐための備えも当然の事ながら行っています。

ツキノワグマを始め多くの野生動物は、人間と生息域が折り重なったり隣接したりしています。人間は経済活動によって自らの生命を維持していく生き物ですから、野生動物の生息域でも利益を得るためには遠慮無く侵入していきます。そのために彼らとの軋轢が生じ、人の側が不利益を被ると「被害」を受けたと喧伝します。今年の初夏に起きた秋田での悲劇(人にとってもクマにとっても)はその象徴であると私は思います。ちなみに、例年、クマとの遭遇により命を落とす方の数は、スズメバチに襲われて死亡する方よりかなり少なく、クマの事故がことさらにセンセーショナルに扱われる理由が何なのか理解に苦しんでいます。

今夜の番組、「列島異変」でツキノワグマがどのように扱われるかはわからないのですが、これまでも多くの報道番組に映像を提供してきた経験上、だいたいの想像はつきます。ツキノワグマ関連の番組制作に関わるほとんどの方々は、出会うことすら難しい生き物であるツキノワグマを実際に観察したり見たことがありません。そのような方たちが作る報道番組がツキノワグマの真の姿に迫ることは困難であると思います。たいていの場合、研究者や専門家のコメント、ネットで見つけた映像や視聴者投稿映像の都合のよい部分をつなぎ合わせて、番組の主旨に合うように編集して放送されています。「そのような番組に、おまえはなぜ映像や画像を提供しているのか」という声が聞こえてきそうですが、その生態のごく一部に過ぎないものの、人を避けつつ山野に懸命に生きるツキノワグマの姿を映像を通して知っていただきたいと願い提供を続けています。担当者の方とのやりとりも、クマについての認識を変えていただくことに少しは役立っていると考えています。

マスコミ関係の皆様には、「凶暴、殺人」などの用語や不安感を煽るような音楽の使用を極力控えていただき、クマという生き物に対する正しい認識を持つ方々の知見を重視し正しく反映した冷静な報道を切望しています。毎年、数千頭のクマの命が奪われている状況を当たり前のように受け入れている国民感情を作り出している原因の一端は、報道の在り方にあるからです。

*この記事を投稿して以降も、特に春から初夏にかけて、多く番組制作会社からツキノワグマの映像の提供依頼を受けています。中には「キバをむいたクマの映像はないか?」など、制作意図が透けて見えるような依頼もあり、いろいろと考えさせられました。








by fieldnote | 2016-10-08 23:12 | ツキノワグマ